風が吹いていた。  

 昨日ジムに送られてきた一枚の封書を柚花はジムの奥でこの日も目にした。女子ボクシングに新たな王座のベルトが創立されて、その初代王者をかけて闘う選手の一人に選ばれた。それだけで光栄なことで、でも、その試合に勝たなければやっぱり栄光は手元に残らないのだろう。

 その王座をかけて闘う相手は名護遥。彼女の名前を聞いただけでベルトが遥か遠くにあるように感じられる。けれど、それはそれだけの価値が新設されるベルトにあることも意味している。名護遥を相手に新たなベルトをかけて闘うのだと思うと柚花は身震いを感じる。この上ない崇高な舞台が待ち遠しく、怖くも感じる。早くやってきて欲しくて、十分な時間が欲しいとも思う。矛盾する思いのどちらがより強いのだとしてもやれることは一つしかない。柚花は封書をテーブルに置いて、端の道具置き場となっているラックからボクシンググローブを手にして両手にはめると、トレーナーのアキラに向かって言った。

 

「さぁ、今日もがんがん練習しようか」